大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 平成6年(行ウ)32号 判決

原告

藤本太郎(X1)

右法定代理人親権者父

藤本大成

同親権者母

藤本京子

原告

藤本富士王(X2)

右法定代理人親権者父

藤本大成

同親権者母

藤本京子

原告

藤本大成(X3)

原告

藤本京子(X4)

被告

小野市(Y)

右代表者市長

廣瀬博司

右訴訟代理人弁護士

上谷佳宏

木下卓男

福間則博

幸寺覚

事実及び理由

第三 争点に対する判断

一  争点1について

(一)まず、原告らの「被告は、原告藤本太郎及び同藤本富士王が小野市立小野中学校に進学した場合、右原告らに丸刈り及び私生活の制服着用を強制し、指導してはならない。」とする訴えの適法性について検討する。

原告らの主張によれば、右訴えは、原告らの小野市に対する物権的請求権類似の請求権である人権又は親権の侵害予防請求権を根拠とするものであるところ、具体的・現実的な争訟の解決を目的とする現行訴訟制度のもとにおいては、ある行為によって将来なんらかの権利を侵害されるおそれがあるというだけで、当該行為をしないことを命令することが当然許されるものではなく、当該行為によって侵害される権利の性質及びその侵害の程度、権利を侵害される確実性等に照らし、権利を侵害されてからこれに関する訴訟の中で事後的に権利侵害の違法性を争ったのでは回復しがたい重大な損害を被るおそれがあるなど、事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情がある場合は格別、そうでない限り、あらかじめ右のような不作為命令を求める法律上の利益は存しないというべきである。

そこで、右訴えが右要件を満たしているか否かについて検討するに、本件においては、原告太郎及び原告富士王は、いずれも、小野中学校の生徒ではなく、同原告らが、私立中学校あるいは国立中学校へ進学しなかった場合に、校区等から小野中学校に進学する蓋然性が高いという事情が認められるにすぎないし、小野中学校において過去に丸刈り及び私生活の制服着用について何らかの強制的措置や指導が実施されたという事実は認められない。

したがって、本件規定の強制、指導により原告らが権利を侵害される可能性は高いとはいえず、本件規定の強制、指導の禁止について、事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情は認めることができないから、右訴えは、要件を欠き不適法である。

(二)  次に、本件規定が違憲、違法であることの確認を求める訴えの適法性について検討する。

学校長が学校教育法に基づいて制定した学校規則が違憲、違法であることの確認を求める右訴えは、公法上の権利関係に関する訴訟に該当すると解されるところ、公法上の権利関係に関する訴訟は、通常の民事訴訟と同様に訴訟構造を有する当事者訴訟であるから、法律上の争訟制の要件が存することが必要である。

しかるに、右学校規則は、男子生徒に対して丸刈り、全生徒に対して私生活における制服着用を一般的に規定しているのみで、右学校規則の存在自体が、直接生徒の具体的な権利義務ないし法律関係に影響を与えるものではないから、本件訴えは、具体的事件としての法律上の争訟性の要件を欠くものといえる。

さらに、本件において、原告太郎及び原告富士王は、いずれも、小野中学校の生徒ではなく、同原告らが、私立中学校あるいは国立中学校へ進学しなかった場合に、校区等から小野中学校に進学する蓋然性が高いという事情が認められるにすぎないから、原告らには原告適格も存しないというべきである。

したがって、右訴えは不適法である。

(三)  最後、原告らが本件規定に従う義務がないことの確認を求める訴えの適法性について判断する。

本件規定に従う義務というのは、それ自体その履行を直接に強制されるような義務ではないことからすれば、右訴えの趣旨は、原告太郎及び同富士王が任意にこれに従わないときに、何らかの不利益が生ずるのを防止するために、右義務の存否を事前に確定しておくところにあると解される。

しかし、具体的、現実的な争訟の解決を目的とする現行訴訟制度のもとにおいては、義務違反の結果として将来何らかの不利益処分を受けるおそれがあるというだけで、その処分の発動を差し止めるため、事前に右義務の存否の確定を求めることが当然許されるわけではなく、当該義務の履行によって侵害を受ける権利の性質及びその侵害の程度、違反に対する制裁としての不利益処分の確実性及びその内容又は性質等に照らし、右処分を受けてからこれに関する訴訟の中で事後的に義務の存否を争ったのでは回復しがたい重大な損害を被るおそれがあるなど、事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情がある場合は格別、そうでないかぎり、予め右のような義務の存否の確定を求める法律上の利益を認めることはできないものと解すべきである。

本件においては、原告太郎及び原告富士王は、いずれも、小野中学校の生徒ではなく、同原告らが、私立中学校あるいは国立中学校へ進学しなかった場合に、校区等から小野中学校に進学する蓋然性が高いという事情が認められるにすぎないし、本件規定に従わないことを理由に小野中学校が生徒を懲戒処分に付したり、進級卒業を拒否したことがあったという事実も認められないから、本件規定に従わないことによる不利益処分の確実性は極めて低いといえる。

したがって、本件規定に従う義務について、事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情は認めることができないから、右訴えは、不適法である。

第四 結論

よって、その他の争点について判断するまでもなく、原告らの本件訴えはいずれも不適法であるからこれを却下し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 辻忠雄 裁判官 渡邉安一 伊東浩子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!